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鳥取大学医学部 生化学 (旧統合分子医化学)

因幡の白うさぎプロジェクト

因幡の白うさぎプロジェクト

 

鳥取大学医学部生化学教室では教室配属の医学部医学科学生による、鳥取県に関係した研究も行っています。

その中でも「因幡の白兎」伝説にまつわる研究は数年にわたって続いている学生参加研究プロジェクトです。身近な素材を研究的視点で捉えるトレーニングは、将来的にもリサーチマインドを持った医師育成に役立つと考えられます。研究に興味のある学生さんの積極的な参加を歓迎します。(本プロジェクト以外の通常の研究参加ももちろん大歓迎です)

 

<近年の研究成果> (研究内容は後半に掲載しています)

  

 ①神話「因幡の白兎」とビタミンE (大塚裕眞,森川さくら,妻鹿倫征)

 ②蒲黄抽出成分イソラムネチンの抗炎症効果(浦井真歩,金本敏,佐藤弘子,西村美里)

 ③(おまけ)二十世紀梨抽出物による転写因子Nrf2活性化(面谷卓馬,田中誠幸)

 

 

はじめに:

因幡の白兎(因幡の素兎)伝説は現存する日本最古の歴史書「古事記」に記載されていますが、実際には、多くの神の中でなぜ大穴牟遲神(いわゆる大黒様:後の大国主神:オオクニヌシノミコト)が出雲の国の平定に至ることになるのかを説明した経緯の一部分から抜粋されたものです。

この神話の中では、(1)大黒様による白兎の治療、(2)刺国若比売による大黒様の蘇生、という医療に関する記載があり、日本の歴史上最も古い治療記録ということもできます。

 

では、因幡の白兎伝説とはどのようなものなのでしょうか。写真は白兎海岸(はくと海岸)にある隠伎島と、白兎神社前にある大黒様と白兎像。

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神話「因幡の白兎」(昔話風に)

 

昔々、出雲国(現在の島根県東部)に大黒様(大穴牟遲神、大国主神、大国主命:オオクニヌシノミコト)という神様がいらっしゃいました。 大黒様には大勢の兄弟(八十神)があり、その中でも最も心の優しい神様でした。

兄弟の神様たちは因幡の国(現在の鳥取県東部)に八上比売(やかみひめ)という美しい姫がいるという噂を聞き、求婚するために会いに行くことになりました。 大黒様は兄弟達の家来のように大きな袋を背負わされ、一番後から付いて行くことになりました。

 

兄弟たちが因幡の国の気多の岬(現在の白兎海岸付近)を通りかかったとき、体の皮を剥かれて泣いている一匹の兎を見つけました。

 

兄弟たちはその兎に意地悪をし、海水を浴びて風にあたるとよいと嘘をついて去っていきます。

その兎は騙されているとも知らずに、言われるまま海水で体を洗い、風の強い丘の上で風に吹かれていましたが、海水が乾いて逆に傷がヒリヒリ痛みだしました。

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図は道の駅「神話の里白うさぎ」のHPから引用させてもらいました。 http://sirousagi.com/story.html

 

前よりも苦しくなって泣いている兎のところに、後から遅れてやって来た大黒様が通りかかりました。

 

大黒様はその兎になぜ泣いているのか理由を聞きました。

その兎はそれまでにあった出来事を大黒様に説明しました。

 

「私はあそこにある島(隠伎の島:おきのしま:今の隠岐ではありません)に住んでいたのですが、一度この国に渡ってみたいと思って泳がずに渡る方法を考えていました。するとそこにワニ(サメ)が来たので、彼らを利用しようと考えました。

わたしはワニに自分の仲間とどちらが多いか競争しよう、並んでくれたら自分が数を数える、と話を持ち掛けました。

 

ワニたちは私の言うとおりに一列に並びはじめたので、私は数を数えるふりをして、向こうの島からこちらまで渡って来ました。

しかし、上手く騙せたことが嬉しくなって、つい口が滑って、騙したことを喋ってしまい、ワニ達を怒らせてしまいました。 その仕返しに私はワニに皮を剥かれてしまったのです。

 

それから、私が痛くて泣いていると先ほどここを通られた神様たちが、私に海に浸かって強風で乾かすとよいとおっしゃったので、言われる通りにしたら前よりもっと痛くなり、辛くて泣いていたのです。」

 

大黒様はそれを聞いてその兎に次のように教えてやります。 

 

「すぐに海水ではなく真水で体を洗い、それから蒲(がま)を集めて、その上に寝転びなさい。」

 

それを聞いた兎は今度は真水に浸かり、集めた蒲の上に寝転びました。

そうすると兎の体から毛が生えはじめ、すっかり元の白兎に戻りました。

 

感謝した白兎は、お礼を言うとともに

「八上比売に選ばれるのは、きっと心の優しいあなたでしょう」 と予言します。

 

八上比売のもとに先に到着した八十神達は求婚を断られましたが、八上比売が最終的に求婚を受け入れたのは遅れて到着した大黒様で、白兎の予言通りになりました。

 

ここまで(主に後半部分)がいわゆる「因幡の白兎」として昔話風に言い伝えられている物語ですが、この話には続きがあります。

嫉妬した八十神たちの謀略によって大国主神(大黒様)は二度殺されてしまいます。母の刺国若比売は八十神たちに殺された息子の大国主神を見て嘆き悲しみ、高天原の神産巣日神に懇願し、遣わされた𧏛貝比売・蛤貝比売と共に彼を蘇生させたのでした。。。。。。

 

童謡の中では以下のように親しまれています。

大黒様(だいこくさま)

作詞:石原和三郎(PD) 作曲:田村虎蔵(PD)

 

大きなふくろを かたにかけ 大黒さまが 来かかると ここにいなばの 白うさぎ
皮をむかれて あかはだか

大黒さまは あわれがり「きれいな水に 身を洗い がまのほわたに くるまれ」と
よくよくおしえて やりました

大黒さまの いうとおり きれいな水に 身を洗い がまのほわたに くるまれば
うさぎはもとの 白うさぎ

大黒さまは たれだろう おおくにぬしの みこととて 国をひらきて 世の人を
たすけなされた 神さまよ

 

メロディーは以下のURLから聞くことができます。(外部サイトに繋がります)

https://www.youtube.com/watch?v=SI1e2Vhnkzo

 

 〜蒲(ガマ)について〜

この話の中で兎の治療に使われた蒲(ガマ)をご存知でしょうか。昔は田舎に行けばどこでも見られるようなものでしたが、近年ではすっかり見かけなくなり、珍しくなりました。蒲を植物だと思わず、ガマの油と勘違いしている人も少なくありません。また、童謡の中で「蒲の穂綿にくるまれば」と歌っていること、また、ふかふかした穂の部分が白兎の毛とリンクして、治療に使ったのは穂の部分だとイメージしてしまいますが、古事記の中では「蒲黄(ホオウ)」すなわち蒲の花粉であることが明記されています。この蒲黄の創傷治癒効果を研究するのが「因幡の白うさぎプロジェクト」です。

神話の内容は、実際に起こった史実、人々の見聞、その土地の生活習慣などを元に、色づけをされて物語として伝えらえているものもあると思われます。蒲黄は現在でも漢方成分として止血や抗炎症効果があると言われていますし、「因幡の白兎」の伝説は、白兎海岸の波打ち際で兎がサメに襲われている光景を見た誰かが、昔から傷薬代わりに使用していた蒲と結びつけて創造したものなのかもしれません。

 

蒲(ガマ) 

ガマ科ガマ属の多年草の抽水植物で、池や沼、川の岸辺などの浅い水辺に自生する。円柱状の穂は蒲の穂と呼ばれる。花粉は蒲黄(ほおう)とよばれ、薬用にされる。

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①神話「因幡の白兎」とビタミンE(大塚裕眞,森川さくら,妻鹿倫征)

蒲黄抽出物の中にビタミンE同族体α-トコトリエノール(α-T3)が含まれていることを明らかにしました。α-T3は強力な抗酸化機能、抗炎症効果があることが知られています。

蒲黄粗抽出物及びα-T3に培養細胞におけるキズの修復効果があることを明らかにしました。また、この研究は日本ビタミンE研究会において該当学生が発表しました。

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②蒲黄抽出成分イソラムネチンの抗炎症効果(浦井真歩,金本敏,佐藤弘子,西村美里)

蒲黄の脂溶性抽出成分にイソラムネチンが豊富に含まれていること、イソラムネチンにLPS刺激時のNFkB活性化を抑制することかがあることを示した。

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 ③(おまけ)二十世紀梨抽出物による転写因子Nrf2活性化(面谷卓馬,田中誠幸)

因幡の白兎ではありませんが,鳥取県名産の二十世紀梨に関する研究も行いました.

 

鳥取県名産の二十世紀梨の皮部分の抽出成分(様々なポリフェノール類が含まれる)に転写因子Nrf2活性化能があることを示した。Nrf2は体内における複数の「抗酸化酵素群」の発現を調節する転写因子であり、Nrf2の活性化により抗酸化機能につながる可能性がある。