0859-38-6153
鳥取大学医学部 統合分子医化学

教室の研究

分野の特色
 個体の生命現象は、生体内恒常性を維持するために、生体内物質を生成・分解、変化・修飾、集合・分散させるなどの法則性のある多くの化学反応に基づいて行われている。当分野では、この恒常性が破壊されるメカニズムすなわち疾病発症機構を解明し、さらにその保護手段を開発・応用することを目的に分子レベルの研究を行っている。医学教育では、細胞生化学、遺伝生化学、基礎栄養学、基礎消化器学、基礎神経学、基礎生物学、基礎医学実習等の講義・実習を担当している。

分野での主要な研究テーマとその取り組みについての説明

 当分野では「酸化ストレスと病態」をメインテーマに研究を行っている。
 活性酸素・フリーラジカルによる酸化ストレスは癌をはじめとする各種疾患や動脈硬化、老化の原因に関与していることが知られているが、最近では生物がこの酸化ストレスをシグナル伝達の手段として生体内で利用している可能性が示唆されている。当分野では、従来の酸化ストレスによる細胞障害に加えて、アポトーシスにおける酸化ストレスシグナルの役割、酸化ストレスが細胞内タンパク質凝集におよぼす役割に関する研究や新規抗酸化物質による疾病予防などの基礎研究も行っている。その他に、臨床教室や地元企業との共同研究も行っている。
 

酸化ストレス関連の研究 

1. アポトーシスにおける酸化ストレスシグナルに関する研究
 最近、アポトーシス時にホスファチジルセリンが細胞内で酸化され、細胞表面に露出し、この酸化ホスファチジルセリンがマクロファージによる貪食のエンハンサーとして働く可能性を報告した。現在、アポトーシス時における酸化ホスファチジルセリン生成のさらなる詳細なメカニズムに関する研究を進めている。 


2. コエンザイムQ同族体の抗酸化作用機構に関する研究
① ミトコンドリアに存在し、細胞のエネルギー産生に不可欠なコエンザイムQ(CoQ)10が老化に伴い減少することが明らかにされ、CoQ10をサプリメントとして摂取することの重要性が指摘されている。ヒトの細胞内に微量ながらも共存するCoQ9を外来性に増加させると、細胞は酸化ストレスに耐性を示すことを明らかにした。現在、ヒト細胞内におけるCoQ9とCoQ10の抗酸化作用の差異について検討している。

② CoQ10の細胞老化におよぼす影響
細胞老化に伴い細胞内CoQ量がどのように変化し、CoQ10投与が細胞老化にどのような影響をおよぼすかを検討している。


3. 酸化ストレスと脳神経疾患に関する研究

① パーキンソン病など中枢神経系疾患における神経細胞死と酸化ストレス

パーキンソン病,アルツハイマー病,ハンチントン病など各種神経変性疾患の病態に酸化ストレスが関与していることは古くから知られている.疾患モデル培養細胞,疾患モデルマウスを用いて神経細胞死と酸化ストレスの関係,および細胞保護(抗酸化,非抗酸化)の研究を行っている.

pdf HP用Fig-1.pdf (0.98MB)  解説 → ビタミンE同族体トコトリエノールによる抗酸化能によらない細胞保護メカニズムの研


② パーキンソン関連分子α-synucleinのドパミン存在下におけるメチオニン酸化修飾の研究.

パーキンソン病では病初期にカテコールアミン代謝が存在する細胞を中心に神経細胞死や病的タンパク質蓄積が観察される.我々はドパミンなどカテコールアミンが存在する条件下では127Met残基が酸化修飾されてメチオニンスルホキシドに変化しやすいこと,また周辺のアミノ酸配列がその酸化修飾に重要であることを明らかにした.現在,神経細胞死への関連のみならず,細胞間のα-synuclein伝播への関与も検討している.

pdf HP用Fig-2.pdf (0.97MB)   解説 → α-synucleinMet酸化修飾はドパミン神経特異的な脆弱性に関係している

 

③ 酸化ストレスと細胞内タンパク質凝集についての研究
神経変性疾患で認められる神経細胞内凝集体について,その形成メカニズムと病態における意義につき,酸化ストレスとタンパク質分解機構(オートファジー/ユビキチンプロテアソーム系),タンパク質細胞外分泌のパランスの観点から検討している.

④ α-synucleinの細胞間伝播に伴う,認知機能障害やうつ症状の発生メカニズムに関する研究.

⑤ 内在性抗酸化物質活性化による神経変性疾患治療に関する基盤技術の創出
酸化ストレス関連病態に対する治療の一環として,転写因子Nrf2により調節される内在性抗酸化物質の活性化を検討し,将来的に応用可能な基盤技術の確立を目指す.
    

4. 酸化ストレスの細胞極性に対する作用に関する研究
  癌や炎症性病態の病変部位では、細胞形態(細胞極性)の変化(異常)が観察され、細胞形態(細胞極性)の変化の程度を確認することは、病態の進行状態や治療法を決めるうえで極めて重要である。しかし、癌や炎症性病態での酸化ストレス細胞形態(細胞極性)に対する作用の詳細は未だ不明であり、それについて以下の研究を行っている。

 ①酸化ストレスによって生じる細胞障害時における細胞内シグナル伝達経路の変化および細胞極性に対する作用について、生化学的・形態学的手法を用いた検討。

 ②酸化ストレス障害モデル動物を用いた組織および細胞の極性変化の生化学的・形態学的手法を用いた検討と細胞内シグナル伝達経路の解析。

 
5.抗酸化物質の細胞極性に対する作用機序に関する研究
 食品成分など含まれる抗酸化物質の細胞レベルでの作用(特に細胞極性に対する作用)は不明な点が多い。細胞の極性化は、栄養素の吸収や生理活性物質の分泌、組織の再生などに必要とされており、抗酸化作用を有する食品成分の細胞極性に対する作用を検討することにより、食品成分の細胞レベルでの作用を明らかにする。

 ①培養上皮細胞を用いた創傷治癒モデル、三次元培養系を用いた上皮細胞塊の極性形成過程に対する抗酸化物質の作用の検討。

6.敗血症性ショックの抑制と治療に関する研究
 麻酔集中治療医学教室との共同研究で、これまでに数種類の熱ショックタンパク質誘導剤が敗血症性ショックを抑制することを報告した。現在は、敗血症および急性肺傷害の治療を目標としたリン脂質および各種薬剤のエンドトキシンによる敗血症性ショックの抑制効果に関する研究を行っている。

7.天然資源抽出物質による生体機能改善作用に関する研究
 鳥取県の主要な地場産業である水産業、農業などの産物あるいは廃棄物中に含まれている機能性成分を見つけ出し、抗酸化物質を含めた有機資源として利用するという目的で地元企業と連携して研究を進める。